2013.06.14 23:33

「ズッカ」佐藤一専務に聞く

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記者:高梨秀之

 でんぷん含有量の高さに由来する栗のような甘さと食感を持つ一方で、栽培が難しく、その種子が農家の間で「幻」と呼ばれているカボチャがある。1個1980円の値が付くその品種「栗マロン」の卸販売に心血を注いでいるのが、2007年9月に設立されたズッカ(神戸市東灘区)だ。市場の相場にとらわれず「おいしさ」という価値を追求する佐藤一専務にカボチャへの熱い思いを聞いた。

幻のカボチャ「栗マロン」に心血

――栗マロンとは

 「栗のような甘さと柔らかくほどける食感が特徴のカボチャ。伊勢丹新宿店(東京都新宿区)など量販店への卸や、ネットで産地直送販売しており、子供を持つ30代の主婦や50代以降の夫婦に特に親しまれている。今月から11月中旬までがシーズン。1ケース約10キロで、年間5万ケース前後を出荷している」

 「主力サイズの商品に必要な1.6キログラムの重さまで育てるのが難しく、1本のつるにつきカボチャ1個に栄養が集中するよう、摘花する必要がある。45日間収穫を待って完熟させ、10日間風にさらして水分を抜いて、その後倉庫で14日間寝かせて糖度を高める。こうした手間と時間をかけて作られる栗マロンは、100グラム当たり21グラムという、一般の5倍から10倍に相当するでんぷんを含んでいる」

 ――栗マロンとの出会いは

 「小学5年生のとき母を亡くし、父の佐藤進介代表に男手ひとつで育ててもらった。当時はカボチャが苦手で、食育と称して甘いカボチャの煮付けをごはんに乗せて無理やり食べさせられた。しかし、神戸市内の青果卸販売会社に勤めていた父が栗マロンを扱い始め、中学2年生になって初めて食卓に並んだとき、そのおいしさに感動した。大学在学中はIT(情報技術)関連のNPOに所属し、以前から関心のあった建築関連の勉強もしながら、レストランで働いていた。そのころ食品のブランディングへの興味を持ち、記憶に強く焼き付いていた栗マロンのブランド価値には、まだまだ伸びしろがあることに気付いた。そこで06年から、それまでの経験を生かしつつカボチャの販売とブランドの構築に携わっている」

 ――ブランド価値を守るための努力は

 「心掛けているのは『いつ食べてもおいしい』といわれるような安定した味の提供だ。北は北海道、南は宮崎県や長崎県と、気候の移り変わりに応じて産地を相互に補完させている。総勢70人ほどの生産者たちのもとへ年に一度は足を運び、その年の気候や売り場の状況などへの対応を検討する。自社が提示する値段で快く売ってくれる店にこそ供給を増やすという体制も、生産者への確実な利益還元につながっている」

 ――新商品開発は

 「栗マロン本来の味を一年中提供できるよう、冷凍ボイルカットや冷凍ペーストの販売を昨年から開始した。加工食品の開発を始めた09年当初はロスの削減を重視し、販売期限が近づいたカボチャを使ったスープを試作した。しかし、高温殺菌で風味が落ちるレトルトは、芦屋市の料理教室の先生に相談した結果『栗マロンの良さがなくなっている』と一蹴された。そこで『おいしさ』という明快な価値を素直に打ち出そうと、最もおいしい時期のカボチャをそのまま蒸して冷凍するというシンプルな発想にシフトした」

 ――今後の展望を

 「栗マロンのブランド価値はもちろん、自社のカボチャ専門企業としてのイメージの確立を当面の目標にしている。ロゴや発送用外装箱のデザインの統一を図り、ホームページには生産の過程や農家の様子を順次掲載する。カボチャのコロッケやアイスクリームといった加工食品の展開も計画中だ」

 「農家がわが子のように育てたカボチャを、タレントとしてプロデュースするように販売する。この姿勢を崩さない限り、栗マロンは最高のカボチャであり続けられると確信している」 

※「フジサンケイ ビジネスアイ」2013.6.3(西日本版)掲載

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記者プロフィール

高梨秀之

高梨秀之

役職 : 報道部リーダー
在学中 : 近畿大学経営学部(3回生)
出身地 : -
誕生日 : 1989年9月12日
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