フジムラ(大阪市・住之江区)は特注のタンクや伸縮継手などを造る鉄工所だ。社員8人の平均年齢は36歳。仕事の裁量度の高さや労働環境の整備により、若手社員がめざましく育っている。何十年先も続く仕事場を社員に残そうと、橋本秀一社長(61)は、自社工場を購入し「夢工場プロジェクト」と名付け改装に取り組んだ。2009(平成21)年の6月、社員全員の思いが詰まった新しい職場が完成した。
工場の外壁は水色とピンクで塗装され、中に入ると社員が組み立てたバイクや、木を積み上げて作ったカウンターチェアが置かれている。「遊び場」のような職場で、社員が生き生きと仕事に励む。
同社は5年前から、社員に責任を自覚させ成長してもらおうと、消耗品の仕入れや作業の段取り、製作品の価格決めなど仕事に関わる決定の8割を社員に任せている。高校を中退して数カ所の職場を渡り歩いたり、軽度の知的障害があったりする社員もいる。
社員は叱咤(しった)されながらも、挨拶や言葉遣い、問題に対処する姿勢を学んでいく。橋本社長は「学校や家庭でしつけを受けていない子もいる。中小企業の社長は一人ひとりと向き合えるからこそ、その軌道修正をしたい」と話す。
1980年の創業以来利用していた貸し工場は、現在の3分の1程度の広さしかなく、扱えるタンクの大きさも限られていた。リーマンショックの不況が続く2009年の1月、現在の工場が競売に出された。
橋本社長は「じっと我慢しても、やがて企業は消滅する。社員が何十年先も活躍できる居場所を残すために、チャンスを逃したくない」と、他の企業が買い渋るなか同年3月、1億円以上で落札。
「夢工場プロジェクト」と名付け、社員や仲間とともに工場の改装に取り組んだ。製缶に不可欠なクレーンを取り付けるために、2階と3階の床をくり抜いて吹き抜けを作った。天井には断熱材を施工。空きスペースは、社員の子どもが遊びに来たときのためのキッズスペースや、家賃収入を得るための貸しテナントにした。同年6月、社員全員のアイデアが詰まった夢工場ができ上がった。
工場が大きくなったことで、航空機関係や電気自動車関連といった従来とは違う分野の企業からの受注が伸びた。橋本社長は「あくまでもこの工場は社員の土台。ここから自分の夢を追い求めてほしい」と話す。
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