「従業員の働きがいは給与ではなく具体的な未来が示されているかどうかです」。そう語るのは斉藤税務会計事務所(大阪市北区)の所長で税理士の斉藤恭明(51)さん。同事務所では会社の資金計画や売上目標を立てて会社の夢に具体的な道筋を示す「未来会計」を軸に活動しています。未来会計の特徴や始めたきっかけ、今後の展望について聞きました。
――未来会計の特徴は
斉藤
:会計事務所は「制度会計」という法律に規定された業務が一般的です。一方、「未来会計」は、会社の夢を資金計画からサポートする、法律に規定されない業務です。たとえば、経営者が「新卒を一人ずつ採用したい」と相談に来た場合、初任給や昇給の計画、その際のマイナスの補填(ほてん)の方法などを聞きながら、計画を共に完成させ、会社の課題や改善点に関して気付きを与えます。
――なぜ未来会計を始めたのか
斉藤
:経営者が持つ夢の道筋を示し、従業員にも働きがいを持ってほしかったからです。私たちの顧客の多くは資金繰りに苦労している中小企業です。それでも「がんばってくれている従業員の給与を上げたい」と、たくさんの経営者から相談を受けます。しかし、資金繰りの厳しい中小企業で、給与を働きがいにしていいのかと疑問に思いました。私も多いときで1年間に十数カ所の会計事務所を渡り歩きました。その理由はこれらの事務所は夢も理想も無く、働き続けても自分は幸せになれないと思ったからでした。給与だけでは従業員の働きがいにはなりません。
中小企業のなかには、社長一族のために従業員が働いていることがよくあります。弊所に4年前に入所した従業員の「先生、私はこの事務所でがんばればどこまで出世できますか」という素直な一言にはっとしました。そのときに改めて、従業員は社長一族のために働くのではなく、最高の人生を送るために働くべきだと気付きました。会社は従業員と共に何を目指すのか、その目指すべき方向を具体的に示せば、従業員も目標や働きがいを持つことができると考えました。
――未来会計の強みは
斉藤
:当社は会計事務所なので会社の財務状況を正確に把握したうえで、気付きを与えられることです。たとえば、例年赤字が続いている会社で、役員報酬が多すぎたり、ほとんど働けていない定年を迎えた従業員を情で雇っていたり、それさえ削れば黒字にできる事例がありました。最初は経営者も渋っていましたが、正確な会計資料を見せれば、削るべきところがはっきりと分かります。「さあ、どうしましょう」と問い続けると、経営者も報酬を減らしたり、定年を迎えている従業員に辞めていただいたりと決断してくれて、会社が持ち直しました。
――今後の展望は
斉藤
:経営者と一緒に夢に向かっていきたいです。過去には会社の経費に個人的な経費を計上するなど、事実を仮装して納税額をできるだけ低くしようとする経営者もいました。それでは正確な経営状況が分かる数字は出せず、適切な気付きを与えることができません。当社に依頼するのだったら正直に申告して、一緒に夢を作りたいと思われるくらいの信頼関係を築けることが理想です。経営者に夢への道筋を、従業員には働きがいを与えていきたいです。