株式会社中田製作所(大阪府八尾市)は創業から35年間、アルミ精密部品加工を専門としてきた。主に半導体、液晶製造装置、医療機器、産業用ロボットなどの分野の企業と取引を行い、緻密な技術を要するアルミ加工技術で評価を得ている。
経営理念は「もの作りで社会に貢献し全社員の幸福を目指す」。創業者から現在の社長に引き継がれた。「それぞれの家庭のためにがんばることが会社のためになる。仕事と家庭の両立が大切」と中田寛社長は話す。そこで同社では「for the family」というスローガンを掲げ家庭を重視し、子供の誕生日といった家族の大切な日には家族が一緒に過ごせる「記念日休暇」を設けるなど、仕事と家庭の両立を意識している。
バランスへの配慮が生む新発想
若い社員が多いことも特徴だ。現在の平均年齢は32歳で採用条件を25歳までと決めている。創立当初は少人数で運営していたが次第に従業員が増えて年齢層が上がったため、近年は新卒などの若い人材を積極的に採用することで全体の平均年齢を抑えている。一般的に技術力に対する不安を抱えそうだが、中田社長はそんなことは「ない」と言い切る。理由は「若手には事業の推進力があり、仕事への先入観がない。新しいことを始めることへの壁もないので新技術を構築する際にメリットがある」といい、この考え方が、これまで不可能と考えていた10ミクロンという肉眼では確認できないほど小さな穴をあけるなどの超微細加工技術の開発につながった。
当初、超微細技術の中でも素材へ小さな穴をあける極微小径穴加工技術は従業員から開発が難しいと言われたそうだ。しかしそこで諦めるのではなく、同社の若手従業員たちとともに技術的な問題に試行錯誤を重ね課題を克服、製品化を実現した。
同社は、従業員のやりがいも大切にしている。若い従業員に対しては積極的に新技術の開発に参加させ、若手の持つ柔軟な発想で課題に取り組ませる。そして家庭ができた場合には家族を養う社会的責任感の大切さと家庭の維持が良い仕事に繋がることを理解させる。その上で長年のアルミ加工で培われたノウハウによる安定した技術に裏打ちされたベテランと、ベテランに比べ知識や経験は少ない一方、既存の手法に縛られない柔軟な発想を持つ若手でバランス良く企業を支えている。こうした家庭と会社への責任感を持てる教育を続けていることが今の中田製作所の今の姿につながっているようだ。
取材する前は下町の中小企業の工場は若い人も少なく、ワンマン体質で、頑固な経営者が運営していると思っていたのが、いい意味で色々と覆されました。
初めて「溝切削加工技術」という素材の表面に0.3ミリの微小な溝を掘る技術を取引先から依頼された際、予算以上の経費を同社が負担しても要求された規格を満たせなかったそうです。そこで当時、同社の技術の限界で作成したサンプルを持参し謝罪に行ったところ、先方から「今の課題が見えていて、もう少しの時間でできるならその分は負担するから挑戦してみなさい」と言ってもらえたのだそうです。その結果、苦労の末に成功できた話など、中田社長の会社経営に対する情熱が感じられ、もの作りの現場の底力を垣間みることができました。
(学生通信社 近畿大学 小林大起)