奈良県で20教室を運営する学習塾ケーイーシー(奈良県生駒市)は、「人間大事の教育」という理念のもと、生徒の自主・自立を大切にした教育を行っている。今年3月に社長に就任した小椋義則氏に就任の経緯や教育を取り巻く環境について聞いた。――社長就任の経緯を
「今年3月に父である先代の社長が亡くなり、後任として社長に就いた。前職は大手総合人材サービス会社で企業への採用・教育コンサルタントをしていた。大学生が就職活動で悪戦苦闘している様子や、社会人が仕事に行き詰まっている様子をみて、もっと楽しく働ける方法があるのではないかと思っていた」
「子どものうちからキャリア教育する機会の必要性を感じ、5年前ケーイーシーに入社した。先代社長はよく、人間は生命を引き継いでいく中で、知の伝授をしてきたと言っていた。社長に就くことは、先代が築いた信用、人間関係の全てを引き継ぐこと。父が残したものを無駄にしないよう、さらにプラスアルファして後世に伝えたい」
――変えないこと、変えるべきことは
「変えないのは企業理念。“人間大事”の教育を今後も大切にする。変えるべきは、今までなんとなくあった理念を深く社員全員に浸透させること。最終的に生徒と保護者、地域全体にも浸透させたい。現在は『理念浸透プロジェクト』を筆頭に、社員が交代でウェブ掲示板に理念に対する思いを書き込む理念バトンを行ったり、社員合宿で語り合う場を設けている」
――社内の雰囲気は
「サービス業は離職率が高いが、当社は非常に低い。それはブランドステートメントの『トコトン+ワクワク+α(アルファ)』を意識している人が多いから。会議も単なる報告会で終わらせるのではなく、どうしたら出席者全員のモチベーションが上がるかを常に考えている。また、生徒にワクワクしろと言うだけではだめ。自分たちがワクワクしながら仕事をしている姿を見せることで、生徒が大人への憧れを抱くことにつながると思っている」
――教育を取り巻く環境をどうみる
「就職活動を対象とする塾の学生をみると、競争を嫌う、自己肯定感が低い、ストレス耐性の弱い学生が多い。一方、世の中は競争がどんどん厳しくなっている。日本人だけではなく外国人もライバル。このような環境で、詰め込みの教育は空回りしている。大切なのは、生徒が自分の力でやり切る経験を積むことで、やればできるという強い自信をつけさせること。厳しい世の中を生き抜くには、強い自信が最も大切と感じている」
――生徒が自分の力でやり切るために必要なことは
「目標の立て方を指導している。頑張るという目標ではなく、頑張るとはどういう状況なのか。どの地点を結果とするのか、具体的にどう行動すれば結果につながるかを考え、実行させる。自分の力でやり切ることで自信が生まれる。小学生を対象に課題に対して自分で考え、意見を述べる『表現』という授業も取り入れている。国立大学付属中学の入試では暗記問題だけではなく、自分の意見を述べさせられる。『表現』は入試問題のニーズに合っている」
――今後の展望を
「小学校低学年から社会人までの学習塾だが、年齢層によって運営システムが違ったり、別組織になっており、トータルでの人格形成につながっていない。一貫教育をすることで、これからの新しい時代を力強く生きてゆく若者を育てたい。そのために、もう一度おのおのの教育サービスを整備したい。決意は、地域貢献のために奈良県にとってなくてはならない教育機関にすること。当社があるから奈良県の教育水準は高いといわれるようにしてきたい」
(学生通信社 同志社女子大学 田中茉希子)
※「フジサンケイ ビジネスアイ」2012.7.23(西日本版)掲載
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