少子化が進むなか、通信制高校の数が増え続けている。その生徒数は約19万人にも上るが、不登校や中途退学経験者が多く、2人に1人が卒業後、就職も進学も選ばないという。そんな若者が自ら未来を選択し、築いていけるようキャリア教育を中心に活動する日本で唯一のNPO法人がD×P(大阪市城東区)だ。共同代表の今井紀明さん(28)はイラク戦争で人質となった経験があり「若者がつまずいても、未来をもう一度築いていける希望が持てる社会をつくりたい」と話す。
D×Pは2012年6月に今井さんと、共同代表である朴基浩さんにより設立された。提携している私立の通信制高校で「クレッシェンド」という全4回のキャリア教育プログラムを行っている。
授業では「コンポーザー」と呼ばれる18歳から39歳までの大学生や社会人がボランティアで集い、生徒と信頼関係を築きながら長い時間をかけて対談を重ねていく。少人数制にこだわり、生徒10人に対してコンポーザーとスタッフが計8人で授業が行われる。
コンポーザーの失敗体験を語ることで、生徒にも同じように「自分も乗り越えられる。自分もやればできる」ことを知ってもらい、ともに学ぶことを目的としている。私立の通信制高校と提携し単位化されるため、生徒には必ずクレッシェンドへの参加を義務づけている学校もある。
「進学でも、就職でも、なにを選択してもいい。けれど進路を決めないまま終わらないでほしい」と今井さん。とはいえ、就職を希望していても、不況のなかでなかなか内定を貰えない若者は多い。
この状況を打開するため生徒を「できない」からクレッシェンドの授業を通して「やってみたい」にすることが使命だという。4回の授業終了後も、支援者からの寄付で高校生のインターンシップへの派遣やアートプロジェクトの開催などを通し、引き続きサポートしている。
通信制高校や定時制高校の制度を変革する必要性も訴える。昭和30年代にもともと勤労学生のためにスタートした高校だが、生徒の対象が大きく変わった今も当時と同じ法律やカリキュラム、制度のまま引き継がれているからだ。「全日制高校の教育を短縮して行う場所ではなく、通信制、定時制、それぞれに合うカリキュラムに作り替えていく必要がある」と今井さんは話す。
今井さんはイラク戦争が起きた18歳の時、劣化ウラン弾の危険性を訴えるためにイラクに渡り、現地で人質となった経験を持つ。そのときに日本で批判を受け、自己責任論の議論が巻き起こったことと、現在の不登校、中退経験者の体験が似ていると感じたという。このことがD×P設立のきっかけとなった。
通信制高校が増えた背景として「多様な個性を持つ生徒が増えたことや、株式会社でも学校を作れるように制度が改正されたことなど複合的な要因」(今井さん)があるが、現在の体制では教師の数が足りず、不登校や中退を経験した生徒が自分で将来の方向性を見つけるためのサポートが無いのが現状だ。
この問題にいち早く気付き、事業を展開してきた今井さんは「自分1人でも積極的に動ける子はいい。動きたいのに動けない子の一歩を先生方と、僕らは導きたい。若者の挑戦がバッシングされてしまう社会はおかしい」と語り、明るい将来を見据えることができる仕組みのひとつ、社会の階段になりたいという。今後は定時制高校にも事業の幅を広げる予定だ。
写真キャプション「笑顔で話す今井紀明共同代表(大阪市城東区のD×P事務所)」
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