建築家の堤庸策氏は2010年に発足したGREEN BLUE(大阪市西区)の代表を務める。同社が運営するクリエイターズシェアオフィス「FACTO」内に自身の設計事務所「arbol」を構える。12年に一般社団法人日本商環境デザイン協会のデザインアワードで金賞を受賞し、設計の技術に高い評価を得ている堤代表に、シェアオフィス事業の魅力や今後の展望について聞いた。
異業種の出会いが生まれる空間に
――会社設立の経緯は
「建築事務所で働いた後、見聞を広げようとヨーロッパ、アメリカでそれぞれ4カ月間の旅をした。次はアジアを回りたいと思い、軍資金をつくるため06年日本に戻ったところ、同年に住宅設計の依頼があり、その後も依頼が続いた。そこでフリーランスとして働くことを決意。09年に設計事務所arbolを設立した」
「当初は個人事務所で仕事をしていたが、ヨーロッパで普及しているシェアスペースの概念をオフィスに取り入れて仕事の効率化を図りたいと考え、10年に当社を設立し、自らシェアオフィスを開業した」
――シェアオフィスとは
「ひとつのスペースを複数の団体、個人が事務所として利用できるオフィス環境のことだ。間仕切りなどで個人の空間があるシェアオフィスが一般的だが、FACTOはこれに加え、ひとつのフロアに仕切りのないオープンなスペースと3つのイベントスペースを設けた。外部主催のイベントに触れるスペースをつくることで出会いを生み出している。クリエイターを中心に、NPO法人(特定非営利活動法人)や翻訳家など合わせて6つの法人や個人とオフィスを共有している」
――シェアオフィスから何が生まれるか
「オープンスペースやイベントスペースに仕切りをつくらないのは、講演会や展示会などを同時開催できるようにするためだ。それぞれの分野に特化した人たちが別のジャンルに出会い、新しい組み合わせからクリエーティブ(創造性)を生むための環境だ。実際、コラボレーション事例も年に数件ある。昨年はFACTOが開催したイベントを通じて、飲食店の開業を考える人から依頼があった。店舗の設計を私が、ウェブデザインやグラフィックデザインをオフィス利用者がそれぞれ担当した」
――合作しないコラボレーションといえる
「成果物を共有しない合作もある。お互い別々に制作しながらも、同じ空間で仕事をすることでその人の姿勢や手法の影響を受けた成果物が生まれる。同業でも同じことはあるが、別のジャンル同士だからこそクリエーティブが誕生するきっかけになる。大企業でも存続が不安定な時代になり、個人活動が活発になることで、シェアオフィスは今後も増えるだろう。他に頼らない自立した人同士がより切磋琢磨(せっさたくま)できるシェアオフィスにしたい」
――今後の課題と展望を
「建築家として設計事務所の仕事を優先しながら、シェアオフィス管理者の役割を果たすことだ。イベントも外部の持ち込みで開催する場合が多く、オフィス内部から生まれた成果はまだ少ない。個々が軸となり活躍できるオフィスの仕組みをつくり、シェアの可能性を最大限に引き出したい」
「シェアオフィス事業で体験できることを設計に生かしたい。設計は用途に沿ってレイアウトを決定するのが一般的だが、FACTOのスペースは同じ空間でも集まる人によって用途が多様に変化する。FACTOの運営や空間づくりに携わることで、作り手以外の視点からの発想を学び、建築家としての仕事に反映させたい」
(学生通信社 立命館大学 産業社会学部 中津りりか)
2014年5月12日付「フジサンケイビジネスアイ」西日本版掲載
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