大阪冶金興業(大阪市東淀川区)は、金属製品に熱を加えて強度を高める「熱処理加工」を創業以来73年にわたって手がけてきた。その一方、寺内俊太郎社長は70歳を前に工学博士の学位を取得し、2代目トップながら技術革新に余念がない努力家だ。ものづくりへの思いと変化する時代を生き抜く秘訣(ひけつ)を聞いた。
金属加工で時代をリードし続ける
――会社の強みは
「大規模な『真空熱処理炉』だ。真空では熱効率が上がり、高温での熱処理を省エネルギーで実現できる。1969年に米国から導入した当時最先端の真空炉が全国から注目され、その後も熱処理技術をリードしていくことになった」
「真空炉を利用した技術『MIM(メタル・インジェクション・モールディング)』の開発にも89年から取り組んでいる。プラスチック成形法を金属に応用し、超小型で複雑な金属部品を1回の成形でほぼ完成形に仕上げる技術だ。金属とプラスチックを混ぜた粉末を押し固め、加熱により不要なプラスチックを取り除いて純粋な金属のみを残す。鋳造による成形とは異なり、溶かす工程を経ないので結晶の大きさが維持され、より強度の高い製品がつくれる」
――会社の歴史は70年以上だ
「進歩し続けることが秘訣だ。戦時中は戦闘機『飛燕』のエンジンに使用される部品の熱処理をしていたが、戦後はトラックなど民間向け車両のエンジン部品加工に切り替えた。真空炉の導入以降は発電機のガスタービンの翼部分や人工衛星『ひまわり』、小惑星探査機『はやぶさ』の燃料タンクなど、1300度近い高温にさらされる製品の熱処理を手がけている。MIMを用いることでコンピューターやロボットの精密部品の製造も可能になった。時代とともに材料も製品も変わる。技術も立ち止まってはいられない」
――常に最先端であり続けるための取り組みは
「当社には超音波やX線などを用いた金属分析が可能な実験設備があり、社員がいつでも自由に使用できるように開放している。ものづくりの現場に存在する課題の解決に向けた最先端の研究が目的だ。自分は熱加工技術の実用化に関する研究成果が認められ、60歳代でようやく博士号を取得したが、社員にも目標にしてほしい。実験や研究のために生産力にならない大規模な設備を維持するのは簡単ではないが、社内から新たなアイデアを生み出すためには不可欠だ」
――仕事をする上でのこだわりは
「日本にしかできないものづくりを大切にしている。たとえば、ガスタービンの翼部分は上部と下部で厚みが異なるため、一般的な真空炉では伝わる温度にばらつきが生じ、寿命に影響する。そこで冷却速度をできるだけ均一にすべく緻密な調整をすることで、耐久性と熱効率の向上に成功した。見た目は海外製とほぼ同じだが、使用感など目に見えない感性に訴えるものづくりは日本の得意分野だ」
――今後の展望を
「現在力を入れているのが医療分野への応用で、人工骨や人工椎間板の5年先の実用化をめざして国立大学医学研究科と共同で臨床実験中だ。人工骨は人それぞれ形が異なるため微妙な調整が可能な3D(3次元)プリンターを用いるが、人工椎間板は人体に無害なチタンをMIMによって骨組織に近いスポンジ状に成形し、その表面を処理したチタンで覆うことで骨との結合性と耐久性を両立させた。どの技術もオールマイティーではないが、多くの選択肢を持つ当社では用途に合わせて使い分けることができる。これまで培ってきた技術を、より便利で耐久性のある製品をつくることで社会に還元したい」
(学生通信社 大阪大学経済学部 板谷祥奈)
2014年5月19日付「フジサンケイビジネスアイ」西日本版掲載
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