理化工業(大阪府八尾市)は、自動車などに使われる金属部品などの強度を高める熱処理加工メーカー。「自ら考え、自ら動き、自ら高める」を信条とする森嶋勲社長に、事業の現状や今後の展望を聞いた。
熱処理加工土台に100年続く企業へ
――社長に就任した際の経緯を
「大学卒業後は商社で営業をしていた。その頃、理化工業の事業は主に大量生産できるネジなどを対象にしていたが、円高により仕事が激減した。そのため新しい取り組みをしなければならず、営業の経験を生かそうと1990年に父が経営していた当社に入社した。2001年の正月に、父から『社長をやってみないか』といわれ、二つ返事で受けた。事業を立て直す気持ちで入社していたので、跡を継ぐ心積もりはできていた」
――苦労を感じたことは
「就任時、経営理念がないことに一番苦労した。父親が社長だった頃は、その生き方や背中が経営理念。売り上げ、利益があり、社員には給料、ボーナスだけを払えばいい、という方針だった。『自分はここまでやるのにあいつはしない』『誰がこの仕事をやるんだ』との声を聞いたときに、決まりごとや方向性を示すことが必要だと感じた」
――どのようにして理念をつくったのか
「経営者の集まる中小企業家同友会で多くの刺激を受けた。ほかの経営者から助言を受けて今の理念を作った。理念の1つである『私たちの幸せのために共に汗を流すチームとなることを目指す』など、初めは自分が社内で理念を語っても、理解してもらえる自信がなかった。恥ずかしい気持ちもあったが、少しずつ社員に語りかけていった。3年後には社員と自社の理念について話し合えるようになった」
――理念実現のために取り組んでいることは
「理念を考え始めてから、社員一人一人が自ら働きたいと思わないと、会社としての発展もないことに気付いた。そこで、どのような社員が評価されるべきかについて社内でアンケートを取り、1年半かけて評価シートを作り替えた。評価した結果がどのように給料に反映されるのかなど、賃金制度を見直し、給料や人材育成、資格の応援につなげた。また、最初は幹部社員だけで『人を大切にするとはどういうことか』などをテーマにグループでディスカッションしたところ、幹部社員から『みんなでやりましょう』という声があがり、毎月1回30分、4年続け、従業員50人で理念の実現に力を注いでいる」
――事業の概要を
「仕事は『BtoB』。Bの中でももっともニッチ(隙間)な分野であり、幅広くネットワークを使う必要性を感じていた。提案事例をホームページに掲載し、顧客の要望に一つ一つ応えていくことから始めた。今は少量多品種が強みだ。社長に就任する前は商品管理をすべて紙ベースで行っていたが、パソコンが得意な社員にIT(情報技術)化を任せたところ、商品管理がスムーズになったので、これをきっかけに商品を増やした。就任5年目で『IT経営百選優秀賞』などの受賞につながった」
――今後の目標は
「100年、200年先にも『理化工業』があることだ。さらなる事業拡大のため、自動車部品産業が集積するタイ進出の準備を進めている。自分が先頭を切っていきたいという思いもあるが、若い社員たちに積極的に取り組んでもらうことで、多くの成功、失敗を体験してほしい。そして次の世代へとつなげてほしい。そのための人材育成制度を今後も導入する必要がある」
(学生通信社 龍谷大学 守谷綾乃)
※「フジサンケイ ビジネスアイ」2012.10.22(西日本版)
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