黒くて硬い磁石のイメージを一新した、柔軟性に優れ自由に加工できる磁石「マグネシート」。磁石の製造から販売まで専門に扱うニチレイマグネット(大阪市城東区)が1974年、世界に先駆けて開発した。経緯や今後の展望などについて、前橋清社長に聞いた。
――磁石に出合うまで、どのような業界に身を置いたのか
「大学卒業後、車のディーラーの仕事をしていたが、60年代に友人からホワイトボードを扱う会社を紹介され、営業に協力することになった。当時ホワイトボードは黒板に代わる商品として市場に流通し始めていた。最初は全くやる気がなかったが、カタログを持って営業に行ったところ『面白い』と数件の大企業に採用された。ホワイトボードの将来性を感じ、そのまま同社に転職した。当時は高度経済成長期だったため、工場やオフィスなどの建設ラッシュ。ホワイトボードは手軽な情報管理板の役割を果たしたのだと思う」
――磁石専門の会社を創立したきっかけは
「転職後、現パナソニック草津工場(滋賀県草津市)の生産ラインの設計を担当した。当時冷蔵庫事業を中心に稼働していた工場の中で、最大級の生産数を誇っていた。生産の過程を見る中で、冷蔵庫の扉に埋め込まれている磁石の材料が規格の大きさしかないことを知り、自由に加工できる色紙のようなマグネットがあればいいと考えた」
「切る、削る、曲げるという自由さを実現したいと思い、69年に磁石を専門に扱う当社を設立した。その思いを持ち続け、材料選定や製造工程などについて試行錯誤し、5年後に『マグネシート』を開発した」
――創業から大切にしてきたことは
「他社と積極的に提携し、磁石が使われる環境をつくることだ。木目調などの建築内装の素材を扱う住友スリーエム(東京都品川区)と、壁紙の装飾フィルムと当社のマグネシートとが一体となった磁石『マグネデコシート』を作った。壁紙感覚で貼りつければ、鉄が入っていない壁でも金属をくっつけられる。失敗がなく簡単に貼り直しができるため、定期的に模様替えをしたい人の家や子供部屋、老人ホームなどで多く使用されている。世代を問わずたくさんの人に身近に感じて使ってもらえることは大きな喜びだ」
――磁石を普及させる活動にも余念がない
「磁石の電極であるプラスとマイナスは、それぞれ漢数字の十と一に見える。そこで当社が10月1日は『磁石の日』と提案し、2007年に日本記念日協会から認定された。これを機に社会貢献活動として08年から、磁石を多くの人に身近に感じてもらうためのイベントを東京都江東区で定期的に開いている。磁石の製造で出た端材を子供たちに配り、遊びや勉強に活用してもらう。後日、お礼の手紙や写真をいただき大変うれしかった」
――東日本大震災の際、ホワイトボードの提供を申し出た
「被災地域の幼稚園から希望があった。話を聞くと、伝言版が生存確認の主な連絡手段となっているが、セロハンテープで何重にも貼ると下にある紙が見えなくなったそうだ。磁石のつく掲示板が増えれば、災害時の情報発信ツールとして役立てるのではと考えている」
――将来の夢は
「磁石を使うことで幸せになってほしいと、45年間思い続けてきた。仕事や遊び、勉強などシーンを問わず、生活の中に溶け込み使ってもらえていることに感謝と喜びを感じている。ゼロから始めた会社が、世界初のマグネシートを作った。積み上げてきた磁石に関するノウハウを生かし、磁石、そして私たちの取り組みをより多くの人に知ってもらえるよう頑張りたい」
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