「ホンモノ体験をしよう」——NPO法人日本アウトドアエデュケーションアカデミー(通称JOEA、大阪市北区)理事長の片山誠(41)さんが最近の子どもたちに寄せる思いだ。JOEAではキャンプやラフティング、パラグライダーなど野外活動の企画・運営を通してこの思いを実現する。自然の中でチャレンジし、人の輪を大切にする心を養ってもらいたい。片山さんが目指す教育について、話を聞いた。
――どのような活動をしていますか。
片山:JOEAではまず、子どもたちに私たちの目が届くところでキャンプや川遊びの体験をしてもらいます。そういった「ホンモノ体験」をしながら、子どもたち同士のコミュニティを作り、仲間の大切さを知ってほしいですね。他にも親子や社会人に向けての企画もあり、人の輪を大切にする人材づくりに取り組んでいます。
私が子どもの頃は近所のお兄ちゃんやお姉ちゃんと遊ぶなど、学年を超えたコミュニティができていましたが、今はそれがない。親が子どもを外に出すことを控えているからかもしれません。
――「ホンモノ体験」とは何ですか。
片山:単に遊ぶだけではない体験のことです。通常、ラフティングやパラグライダーは会社の委託で行うことが多い。そのため、参加者がただ単に遊ぶことだけにとどまってしまいます。
我々の場合は企画段階から活動内容を練り上げます。JOEAに所属している社員は指導者として、野外活動に携わった経験のあるプロばかり。プロ目線で野外活動を提供することにより、活動後、振り返りの時間を設けるなど、委託では考えつかない活動を行うことができるのが強みだと考えています。
――なぜ「ホンモノ体験」が必要なのですか。
片山:体験しないと分からないことがあるからです。知人からこんな話を聞きました。子どもがキャンプでたき火をしていると、ある子どもが、火が綺麗だと思い、触りに行ってしまったそうです。今ではIHが主流でコンロの火を見たことがなく、火は熱いものだと体感しないまま育ってきたためでしょう。
もちろん、この例はすごく極端です。インターネットの発達でいろんな疑似体験ができるようになりましたが、こんなことをしたら危険だと知る体験は絶対に必要だと思います。実際に我々が体験してみると、インターネットで得られる情報とは違うと感じることがほとんどだからです。
――活動を始めたきっかけは。
片山:大学時代に自転車で大阪から北海道まで行ったことがきっかけです。2週間かけてゴールに辿り着いたことがすごく自信になりました。やる気になれば、何でもできるということを学び、人生が変わりました。そういう体験を子どもたちに伝えたいと思いました。
ただ課題を与え、それを実行させるのでは何も生み出せない。北海道の時もそうだが、自分からやろうとして達成したからこそ、代え難い経験になりました。子どもたちも、そういう経験ができれば、人生は劇的に変わると思います。
リスクを冒さずに育った子どもは弱い。いろんなリスクがあるからこそ、それに対応する能力が身に着くはずです。野外活動はリスクを通して学ぶことに適した手段だと思います。
――JOEAの今後の目標は。
片山:災害時に、自分で考えて行動できる人材を育成していきたい。その一つとして、来年に、72時間サバイバルキャンプを実施しようと考えています。このキャンプでは、道具を少なくするなど、普段以上に負荷をかけることで、災害時に生き残る力を養うことを目的としています。
これには一般人でもインストラクターとして参加してほしいですね。参加者の様子を見て、振り返りの時に、参加者に反省を促すことがインストラクターの仕事です。昨年11月に行ったプレキャンプでも、大学生がインストラクターとしての役割を果たしてくれました。
野外活動を通して、指導の仕方を多くの人に覚えてもらい、一人でも多くの人に「ホンモノ体験」をしてもらう。それが今の目標です。
〈取材後記〉
取材中に片山さんが発した“ホンモノ体験”という言葉が特に印象に残った。何でも疑似体験できる時代であるが、だからこそ、実物に触れてみることが必要だと感じた。
片山さんの話にも彼の理念が現れていた。私の質問に対し、常に具体例を挙げて説明して下さったからだ。彼自身が“ホンモノ体験”をしているからこそ、説得力のある話が出来るのだと感じた。
ところで先日、家族旅行へ行ったのだが、中学生の妹は終始、スマートフォンとにらめっこしていた。見たこともない景色が目の前に広がっているのに、彼女の目はスマートフォンに釘づけだ。「行く前に写真で見たから良い」のだそうだ。
「百見は一触に如かず」。見ただけで体験したと錯覚している今の若者に是非、“ホンモノ体験”をしてもらいたい。
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