ねじ類をはじめとする工業用部材を製造・販売する丸ヱム製作所(大阪府大東市)は、創業30周年を迎えた1957年に「ステンレスねじ」の量産を日本で初めて開始した。2010年には、軽さと強度を兼ね備える「マグネシウム合金ねじ」の開発に成功し、現在でも社会の変化に対応するためさまざまな素材を研究している。「新しいねじの提案で日本の産業を支え続けたい」と語る松元收社長に、製品開発や今後の展望などを聞いた。
――マグネシウム合金ねじの特徴は
「締結箇所の金属部材とねじに材質や硬さで大きな差があると、緩みやさびが生じやすくなる。ノートパソコンの外装ボックスなどに幅広く使われているマグネシウム合金部材を、安全に締結できる製品として開発した」
「マグネシウムの比重は鉄やステンレスの5分の1程度と、数ある実用金属のなかで最も軽い。自動車やオートバイの部品などで使用し、軽量化が図れれば、燃費の改善に貢献できる。このほか航空機やリニアモーターカー、福祉用具や医療機器での使用などを想定している」
――開発の経緯は
「21世紀に入った当初、発達が進む電子機器の部材にマグネシウムが多く使用される一方で、マグネシウムのねじが市場にないことに着目した。3年間かけて研究開発を進め、04年に『AZ31』という名称で量産を開始。しかし強度に課題が残り、ラジコンや小型ヘリコプターなどに用途が限られた。07年にその強化の研究が経済産業省の『基盤技術高度化支援事業』に採択。資金援助を受けることになり、10年に高い強度と耐熱性を備えた『AZX912』の開発に成功した」
――量産と高強度実現までの苦労は
「当時は専用の製造機械が存在しなかったため、図面を引くところから始めた。マグネシウムは圧力で素材を変形させる加工を終えるまで、特別な加工条件を維持し続ける必要があり、機械設計から完成まで困難を極めた。『AZX912』の開発にあたっては軟鋼製の3倍以上の強度をめざし、ねじの谷部の粒径を微細化して信頼性を上げることに力を注いだ。現在では最後の課題として、防食のための表面処理に取り組んでいる」
――福祉や医療の分野での活用は
「病人や高齢者にとって、特に用具や機器の軽量化は重要になる。松葉づえや車椅子、ベッドなどへの使用を提案し、福祉や医療に関わる人々の負担を少しでも軽減したい。なかでも注目しているのが人工骨への応用だ。マグネシウムは人体への影響が少なく、治癒後の摘出手術も不要になる可能性があるとして医療界で研究が進められている。その素材の締結に適したねじを、当社のノウハウを駆使して提供できればと考えている」
――今後の展望を
「熊本大学(熊本市中央区)と不二ライトメタル(熊本県玉名郡)が2010年、非常に高い強度を誇るマグネシウム合金を産学協同で開発した。その素材を使った製品の開発と加工を、当社が同大学や不二ライトメタルと提携して行う。来年からの本格始動に向け、ねじ以外にもどのような製品を生み出せるのかを思案している」
「組み立てに使用しても簡単に分解できる機能は、ねじしかない。廃棄された電子機器などに眠る貴重な資源をリサイクルして最大限に生かすために不可欠だ。また鉄道車両や航空機はもちろん、眼鏡やスマートフォン(高機能携帯電話)など、ねじは私たちの生活の中で必ず使われており、当社はこれからも日本の産業に貢献し続けられると信じている。今後はステンレスやエンジニアリングプラスチックの強度や耐食性をさらに高める研究も続け、培った技術を応用し、これからの時代と産業界の新しいニーズに応える努力をしていきたい」
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