ディーシーアイ(奈良県御所市)は、製品の後染めや絞り染め、靴下などの企画・販売を手掛ける染色会社だ。染料の研究開発や地元企業との製品開発に注力する飯田亘社長に会社設立の経緯や新たに開発した製品について聞いた。
――会社設立の経緯は
「1997年に大学を卒業し、父が経営する飯田染色(奈良県御所市)に入った。ナイロン染めが主な事業だったが、入社後すぐに業界の生産拠点が中国に移り、受注が激減。新事業として布を縛って染色するタイダイ染めを始めたところ、メディアで取り上げられるようになった。ある大手の靴下メーカーから大量に受注し、取引先を絞ったが、流行は長く続かなかった。そこで以前に依頼を断った企業などに、主事業の一色染めと人目を引きやすいタイダイ染めなどを併せて提案することで得意先を増やしていった。タイダイ染めとインクジェットプリント染色、ネット販売の3本柱で、2003年、ディーシーアイとして独立した」
――独立後の変化は
「もともと奈良県内の靴下の製造企業などに新規提案をしていたが、特殊技術で値段が高いため契約が決まらず、大阪や京都など県外に提案先を変えた。東京のアパレルメーカーと仕事をする中で、奈良県内にも布への印刷や縫製などを手掛ける繊維関係の会社が多くあることを知った。再び電話帳などで調べて県内の企業に当たり始めたところ、網掛けなど特殊な縫製技術を持つ会社と出合い、下着などのコラボ商品を手掛け始めた」
――ほかのコラボ商品は
「以前から協業していた、塩化ビニール関連の商品企画・販売をするサンブート(奈良県葛城市)に『塩化ビニールを染めることはできないか』と提案し、材料の提供を受けて、昨年8月に研究を始めた。塩化ビニールは一色染めや後加工の色付けなどはできたが、手染めは難しいとされていた。若手社員を中心に試行錯誤を重ね、塩化ビニールに浸透する染料と薬品の配合を見つけた」
「デザイナーや職人が1点ずつ筆で手染めしたサンダルを、10月に靴関係の展示会に出した際、百貨店などから引き合いを受け、大反響を得た。11月に『塩ビものづくりコンテスト』で優秀賞を獲得。手染めのため量産はできないが、デザインの複雑さによって、手ごろな商品から高級志向の製品まで、それぞれのブランドの価格帯に合わせた提案ができる」
――新技術開発のための取り組みは
「大手の染色会社と違い、中小企業は開発力がなく、加工方法があらかじめ決まっている薬品を購入して使用するため、他社との差別化ができず、価格競争に陥ってしまう。開発にも取り組むため、化学に詳しいベテランを呼び、若手社員とともに化学の理論を学びながら、現場で繰り返し実験してきた。薬品や染色メーカーでも開発できない染料を作るための素地ができ、社員が喜んで染色技術の開発に努めるようになった。化学知識の後ろ盾があり、塩化ビニールのように染色が難しい素材にも取り組むことができた」
――環境に配慮した製品開発もある
「化学染料は少なからず環境に負荷がかかってしまう。1窯分だけでも環境に優しい染料を使おうと草木染を取り入れたが、原料を採集する過程で自然を傷つけてしまう。そこで、コーヒーで染めたら面白いのではと思い、コーヒーの搾りかすから染料を抽出して再利用する方法をあるコーヒーチェーンに提案したところ、快諾された。抽出した染料でタオルやTシャツを染めて、同社の歳暮用に提供している。新しくて面白いことをして周りを驚かせることが好き。『染められない素材はない』という心意気で、アンテナを張り続けていきたい」
※「フジサンケイ ビジネスアイ」2013.2.11(西日本版)掲載
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