公益財団法人太平洋人材交流センター(大阪市天王寺区)は、開発途上国の発展を担う企業経営者や中堅マネジャー、行政官を対象に、経営管理や生産管理の研修を行う財団だ。関西の国際化とアジア太平洋地域との人材交流を目的に関西経済界の支援のもと、1990年に設立。設立から24年間で136カ国・地域、約15500の研修を行ってきた。
10月中旬から約1カ月間、イラクとパレスチナの観光分野の行政官4人が同財団の研修「JICA中東地域 持続可能な観光開発コース」に参加し、京都の伊根や大阪の堺などを訪問した。研修員4人は10月24日、船舶のバルブなどを鋳造する上田合金(大阪府東大阪市)を視察した。
当日は一般社団法人大阪モノづくり観光推進協会(大阪府東大阪市)が進める「モノづくり観光」について講義を受けた後、同社を訪問。東大阪は、東大寺の大仏建造に使われた金型技術を伝承する企業や、人工衛星「まいど1号」の開発に関わった企業など、各分野の中小製造業の工場が軒を連ねている。
同法人は、そのような企業やそこで働く人を観光資源として生かし、モノづくりの心を若者に伝えるため、修学旅行生と地元のマッチングを行う。上田合金は、鋳造技術を生かして、弥生時代の銅たくや銅鏡の復元に成功しており、修学旅行生や観光客向けに鋳型づくりや銅鏡磨きのプログラムを提供している。
同社の上田富雄社長(78)は「モノづくりに絶対や完璧はない」「50年以上モノづくりをしているが、技術屋は死ぬまで満足できない」「利に走らず、より良い製品を作るために真剣になる」といったモノづくりの魂を、心を込めた言葉で研修員に伝授した。
研修員は銅を鋳造する様子を見学し、文鎮の鋳型づくりにも挑戦した。パレスチナの研修員、アブシャイキ・バセムさん(28)は「上田社長の講義は、同社の今までの経験から得られた実践的な内容だった。研修では、自分の目で見て、手で触れながら仕事を体験できて良かった。研修を通して得た手工芸の知恵を、パレスチナで発展させ伝えていきたい」と感想を寄せた。上田社長は「本物のモノづくりを知るためには、現場に出て体験・体感することが大事だと考え、研修員を受け入れている」と話した。
太平洋人材交流センターは政府開発援助(ODA)を資金源に、国際協力機構(JICA)や関西経済連合会などから委託を受けて研修事業を行う。主な研修形態は研修員が途上国から日本に来る受入研修と専門家を派遣する海外研修だ。
分野は中小企業振興、経営管理、貿易振興、観光振興、環境など多岐にわたる。通常2、3週間のスケジュールで、半日から1日ごとに異なる企業を訪問し、モノづくりの現場を見たり、経営者や社員と交流したりする現場重視の内容が特徴だ。また、アジアを中心に14カ国に同窓会組織があり、同財団が途上国へ専門家を派遣し、課題を共有して助言したり、最新のビジネス情報を伝えたりする、帰国後の支援を行っている。
1980年代、関西の経済界が地域経済活性化のために国際化を目指すなか、関西が担うべき国際協力について探るため1984年、関西経済同友会が太平洋諸国に調査団を派遣した。調査団のメンバーは、訪問国の企業で、労使の立場がはっきりと分かれていることを知った。
一方、日本の企業、特に中小企業は、経営者が社員と共に現場に立ったり、同じ食堂で食事をしたりする文化がある。モノづくりの現場を知りながら、管理もできる中間層がいることで、経営者の意識が社員にまで浸透し、現場の社員も企業の発展に自分がどのように貢献するかを考えられる仕組みがある。
調査団は、そのような日本企業の強みを生かして、経営者と現場の社員をつなぐ中堅マネジャーを育成することで、途上国の発展の可能性が開けるのではと考えた。帰国後、アジア・太平洋地域の人材育成を行う機構を大阪に設立する構想が持ち上がった。
1988年に大阪で開催された太平洋経済協力会議(PECC)総会での議論を経て1990年、関西の民間企業97社と自治体が約34億円の基金を拠出し、太平洋人材交流センターが設立された。
関西は、モノづくりに関わるさまざまな産業の中小企業から大企業が拠点を置いており、幅広い分野の研修を受け入れられる。同財団の国際交流部長・瀬戸口恵美子さん(44)は「関西は、人なつこく、海外の人にとってなじみやすい人が多い。中小企業の社長が、オープンな姿勢で話してくださることも関西の強みだと思う」と話す。
「アジアの国々は、日本人と似た価値観を持つ人が多いため、日本の企業文化がなじみやすいと思う。今までに培ってきた途上国とのネットワークを活用して、関西から海外に進出する企業を支援し、関西とアジア太平洋地域の人材交流を推進していきたい」と瀬戸口さんは今後の展望について話した。
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