1928年創業の山陽製紙(大阪府泉南市)は、時代のニーズにあわせながら古紙を原料とする再生紙づくりを行ってきた。企業や学校などから、一般消費者までだれでも参加できる新規事業「KAMIDECO(カミデコ)」を計画。紙づくりを製紙業ではなく、サービス業と考える原田六次郎社長に、再生紙へのこだわりやこれまでの苦労について聞いた。「紙の循環」実現する社会へ
――KAMIDECOとは
「妻の原田千秋専務が中心となって企画した『紙の循環』がテーマの事業だ。企業や学校で不要となった紙類を引き取り、100%再生紙使用の封筒やプレゼン用紙などをつくって再び回収元の企業や一般消費者への提供を計画している。大阪市が今年10月から、資源化可能な紙類の焼却処分を禁止することになり、そうした環境の変化に対応した事業といえる」
――創業当時から古紙再生にこだわる理由は
「紙の製造には電力やガス、水など自然の恵みが不可欠で、環境へのありがたみを感じているからだ。祖父の故原田楽一(らくいち)が創業した当時、紙は出来上がるまでに手間暇がかかるため高価で、あまり一般の人の手には渡らなかった。今では簡単に手に入るが、使い終わったら単なるごみと見なすのでなく、封筒やプレゼン用紙として再生できる紙の資源としての価値を、自社の製品から感じてほしい」
――もともとは船舶関係の会社に勤めていた
「74年の石油ショック後にこの会社に入社し、しばらくしてから引き継いだ。当時は大手企業がつくるパルプの製品が主流で、古紙メーカーの肩身は狭かった。やがて環境保護が叫ばれるようになり、社員には誇りを持って古紙再生事業に取り組んでほしいと、新たな柱を考えた」
――新たな柱とは
「そのころ関係業者に依頼されたのが和歌山県の特産品『南高梅』の種を炭化させ、再資源化した『梅炭』の活用だ。試行錯誤を繰り返し、梅炭を古紙に配合させた『梅炭クレープ紙』を開発した。2006年5月に東京国際展示場(東京都江東区)で紹介し、08年7月に北海道で行われた洞爺湖サミットではふる舞い酒のパッケージに採用された。時代の変化とともに環境に対する人々の関心が高まり、工場にもどんどん若い人が入ってくる中で、古紙を再生する紙づくりは素晴らしい仕事だということを改めて感じる」
――節水にも取り組んでいる
「工場からの排水量を減らすための節水について考えた際、再生紙づくりのために川から受けている恩恵にあらためて気付き、地域の自然環境への配慮を意識し始めた。5年ほど前から本社の裏を流れている男里川の清掃を工場の周りの地域の皆さんと一緒に始めた。掃除は毎月第4日曜の朝8時からと習慣付けており、遠方から大学生が来ることもある。24時間操業の工場周辺には住宅が多く、いろいろと迷惑を掛けていると思い、おわびの気持ちも込めながら活動している」
――今後の夢を
「紙を捨てる前に、活用法を人々が意識して行動することが古紙を余さず再生できる循環型社会の実現につながると考えている。段ボールや新聞紙の流通はあるが、オフィスから出てくるコピー用紙のような古紙は今までに紙製品の材料としての流通がなかった。提案するサービス『KAMIDECO』を浸透させることで、人々の古紙への意識を変えていきたい」
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