2014.04.25 20:34

「お茶文化抜きにおもてなしは語れない」、老舗茶屋がカフェオープン

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記者:笹山大志

「お茶文化抜きにおもてなしは語れない」――こう話すのは、つぼ市製茶本舗(大阪府高石市)の代表取締役、谷本順一社長(55)だ。同社は嘉永3(1850)年に、初代、谷本市兵衛が泉州、堺に茶問屋・貿易商として創業したのが始まり。現在は、茶の製造や卸、中国茶と健康茶の企画開発を主な事業とし、5代目谷本氏と約80人の社員が伝統を守っている。そんな同社が「お茶と触れ合う機会を作りたい」との思いから、千利休の故郷、堺に、創業163年目にあたる昨年11月、初めてカフェ形式の店をオープンさせた。


カフェは元禄時代から残る築300年の町家を改装。店内から見える中庭には四畳半の茶室をイメージして作られた石庭が映える。そして、茶が入れられた器はいぶし銀のような渋みが特徴の堺焼。つぼ市の茶の人気の秘密は、茶鑑定士6段を持つ谷本氏が全国の産地から茶葉を選別し、自社工場で「後火仕上げ」という焙煎製法でいれる抹茶のコク深さ。伝統ある建物や庭、陶器がさらに茶の味わいをひきたてる。

「茶の魅力は何か」谷本社長は日本特有の「おもてなし文化」にも重ねてこう語る。「人をもてなす時の『とりあえず、一杯』。そんな茶の一服は相手の心を落ち着かせ、安らぎを与える。新店舗では地域の応接間としての空間を提供したい」その思いは「お茶と、人と、人と」という経営理念にも表れている。

「お茶と触れ合える機会を作りたい」163年目にして初めてのカフェの出店を決めた理由もそこにある。ペットボトルの普及が、家族団欒の「お茶の時間」や心の安らぎを与える茶文化の良さを薄れさせつつある。「お茶は人が入れ、人と飲むからおいしい。お茶は飲み物ではなく、心を潤すものだということに気付いてもらいたい」と谷本社長は話す。

2011年にカフェの出店を決めてから2年。若い世代にも茶を身近に感じてもらうため、茶を使った菓子製品の開発にも力を注ぐ。人気の菓子は利休抹茶アイスクリームやあんみつ。飲み干した煎茶の茶殻にポン酢をかけて食べるサラダ風の商品もある。米が欲しくなる香ばしい味は、プロの茶だからこそ出せる職人技なのだろう。

谷本社長は「日本の文化に直接携わることが出来るのはとても幸せなこと。お茶の余韻と伝統感じる空間を少しでも楽しんでもらいたい」と話す。老舗企業の新しい取り組みは始まったばかりだ

つぼ市製茶:http://www.tsuboichi.co.jp/

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