金属を溶接する音が響く築45年の町工場に毎年、国内外から200社が見学に訪れる。目的は同社の徹底した「整理・整頓・清掃」の3S活動の視察。7時40分に始まり、10分間の清掃、経営理念の唱和、社員による日替わりの3分間スピーチ、1時間の工場見学と続く。「入社2、3年の若い社員が胸を張って会社の取り組みを紹介してくれるから感動する」といった参加者の感想を聞くことができるという。
創業63年の同社に転機が訪れたのは1999年1月。売り上げが前年同月比で95%減少した。当時、専務だった山田茂社長(50)は同社の強みがないことに気づいた。あるセミナーで3S活動の大切さを知り、一緒に参加した弟の雅之さん(48)と同社でも取り入れることを決意。創業者の父やベテラン社員の抵抗にあいながらも続けていくうちに、周りの社員も協力し始めた。3Sを徹底することで、全従業員で価値観が共有され、「全員で守ることを決め、決めたことを守る」社風が生まれた。今では工具の置き場所のルールから経営理念の意味まで全員で話し合う企業風土ができあがった。
ステンレスなどの材料を使用した各種製缶板金部品を一つ一つオーダーメードで製作する。主力製品は、携帯の液晶画面などに使用されるフィルムを作る機械や産業用乾燥機。強みは設計から板金・製缶加工、溶接、組み付け調整までの一貫加工ができること。薄いステンレス板を極力ゆがめずに溶接する技術がそれを可能にする。60代のベテラン社員による月2回の技能伝承のための勉強会や入社後の約6カ月間のOJT、社外研修がある。
8年前から新卒採用を始めた。社長や先輩社員が新入社員に寄り添い、潜在能力を見つけて伸ばす。「何のために働くのか」を問い掛けていく中で、双方がともに育ち合う文化ができた。来年度は地元の高校生1、2人と大卒の設計者1人の採用を予定。求めることは「素直さ」。山田社長は「親の経済格差が子どもの進学に影響し、非正規雇用が増える中で、中小・零細企業が地元の高校生を採用し、正社員として一から育てていくことが大切」と語る。
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