獣医師として32年間、動物と向き合ってきた永田動物病院(大阪府箕面市)の院長・永田高司さん(62)。「早期発見・早期治療はしないほうがいい」という独自の治療哲学を持つ永田さんに、動物と接するなかで気づいたことなどを聞きました。――動物と人間の関係についてどのように考えていますか。
永田:人間は万物の霊長で、ほかの動物を支配していると思っていました。しかし長年、動物と接しているうちに、それは人間の思い上がりにすぎないとわかりました。
動物も病気にかかったら、人間と同じ治療を受けますし、使う薬も同じです。違いがあるとすれば、発達している器官。人間は大脳が、猫は小脳が、犬は嗅覚が発達しています。人間と同じように犬も猫も年をとったらぼけてくることもあります。人間より寿命の短い動物は、ある治療を受けるとどのようになるか、そしてどのように死んでいくかを見せてくれます。
我々の先生になってくれるのです。見本を示してくれるので、参考になります。動物の一生を知ることができるのは、日々、さまざまな動物と接している獣医師だけなので、我々にはそれを伝える義務があると思っています.
――治療について考え方の変化はありましたか。
永田:最初の10年ぐらいは教科書に書いてある通りの治療をしていました。しかし同じ病気の動物でも、飼い主によって違う治療を希望することがあります。
お金の問題だったり、飼い主との絆の深さの違いだったりと理由はさまざまです。番犬や猟犬として犬を飼っていて、役に立たなくなったら次の動物に変えてしまう人もいます。
また『腎臓が悪くなった飼い猫に自分の腎臓を移植してやってほしい』と言うほど動物を愛している飼い主もいます。飼い主の要望に応じて別々の治療を施してきた結果、熱心に治療をしないほうが、動物が長生きすることがわかりました。
――現在は治療についてどのように考えているのでしょうか。
永田:早期発見・早期治療はしないほうがいいと考えています。痛い、苦しいなど生活の質が落ちるような症状が出てから治療を受ければいい。
これは動物だけでなく人間にもあてはまると思います。乳がんなどの定期健診が薦められていますが、検査そのものが体に害を与えることがあります。
レントゲンに放射線被爆の可能性があることがその一例です。定期健診の目的は早期に病気を発見することであると言われていますが、最終的に長生きをすることだと私は考えています。
定期健診を啓発するならば、病気を発見できたかどうかではなく、定期健診を受けなかった人より受けた人のほうが長生きをしたというデータを示すべきだと思います。
――教科書に書かれている治療が必ずしも正しいわけではないということですね。
永田:一般的に、ある治療が効果的だという根拠を示すには、その治療を施した場合とそうでない場合にどのような違いがあるかを比べる試験をする必要があります。
これは無作為化比較試験と呼ばれるのですが、現状ではあまり行われていません。ただ、自分は獣医師として数多くの動物の治療を比べ、熱心に治療をしない方がよいと分かりました。
一般的に広がった医療行為が否定されてきた歴史をみると、現在盛んに行われている医療行為が明日には否定される可能性もあります。たとえば、以前は子どもが発熱したら、解熱剤を飲まないと脳に影響を与えると考えられていました。
しかし、現在では解熱剤は使ってはいけないといわれています。我々は知らない間に世間で流れている情報に洗脳されているのです。このような科学的根拠がない治療が流布しているのは、医学が大きな影響力を持っていることによると思います。
――では、私たちはどのように医療行為を選択すればいいのでしょうか。
永田:手術など危険が大きい治療を勧められた場合は、その治療を受けるべきかどうかを確かめるために、ネットで調べたり別の医者に聞いたりするといい。
心から信頼している医者がいれば、その人に任せるのもいいと思います。私のところに来る飼い主も、ネットなどで情報を調べています。
私は、自分自身の考えを説明したうえで、飼い主の直感で治療を受けるかを決めてくださいと言っています。そうすれば、ほとんどの飼い主は私の考えに賛同してくれます。
――飼い主に判断を任せるのはなぜでしょうか。
永田:現在行われている多くの医療行為は無作為化比較試験による寿命の比較が行われていません。その医療行為を受ければ受けないより長生きできる確率が高いと確かめられていないのです。ですから最終的には直感で判断するしかない、と考えているからです。
- ミラノで「和」を発信、「旅芸人」の仕事の流儀(2014.04.24)
- 「庭とともに心豊かな暮らしを」 庭職人という生き方(2014.04.24)
- 関西のモノづくり魂、開発途上国へ(2014.04.24)
- 新しい制震技術で自然を感じる暮らしを――積水ハウスの「スローリビング」(2014.04.24)
- 【学生記者が行く】「ココウェル」水井裕社長に聞く(2014.04.22)
- 「人間愛」で社会に必要な企業へ 積水ハウス 02(2014.04.17)
- 「人間愛」で社会に必要な企業へ 積水ハウス(2014.04.17)
- 【学生記者が行く】「グローバルエンジニアリング」荒川健一社長に聞く(2014.04.17)