2014.04.25 20:42

中小企業で連合し、モノづくりから価値づくり

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記者:穴吹美緒

大阪ケイオス(大阪市中央区)は、工業製品の強度や精度、安さといった多様なお客様のニーズに対応しようと、府内の中小企業19社が共同出資し2010年に設立された。製品の受注や開発、人材育成などを参加企業同士で連携している。「人と会社を育て、困りごとを解決したい」と語る和泉康夫社長(49)に、事業内容や活動にかける考えについて聞いた。


――設立の経緯は。

和泉

:新日本テック(大阪市鶴見区)の代表として金型などを扱うなかで、大企業からの依頼で単に良い製品をつくるだけでは生き残れないと感じていました。中小企業が自ら製品やサービスを提案し、情報発信をしていかなければと思い、同じ問題意識を持っていた経営者たちとともに設立しました。

現在は、精密金型や自動車部品の製作加工を行う会社や、食品会社、動画制作会社など21社が参加しています。社長という肩書自体にあまり意味はなく、参加企業同士の上下関係もありません。個々の特性を生かしながら、磁性流体を利用した新エネルギーの研究開発や、映像を用いた広報活動などさまざまな分野で協力し合っています。

――共同製作の例は。

和泉

:アロマの香りがするスマートフォンクリーナー『ピカホ』を、今年3月に発売しました。シンナーをはじめとする有機溶剤を用いず、ココナッツ油などを使用した製品です。金型製造時に粘着材や油汚れを天然成分で落としていたことからヒントを得ました。

一つの製品が複数の企業を経て完成するまでの工程のうち、一部の工程しか担当しない企業が多いです。参加企業全体で製品を完成させることにより、一つ一つの部品が顧客の満足につながることを実感し、他の参加企業の役割を知り一体感を高めます。たとえ飲み会で提案されたことでも、翌日から真剣に実行します。大阪人らしく『面白いからやってみよう』という心意気で挑戦したいです。

――人材育成を共同で行うメリットは。

和泉

:経験を共有する仲間ができることです。今年は参加企業のうち6社から10人の新入社員が集まりました。入社式までの間、内定者は全ての社長から会社の理念を聞き、モチベーションを高め、入社後は、個々の社長の工夫を凝らした新人研修を受けます。

たとえば、1カ月の給料分の1万円札を並べて、お客様や先輩の社員など多くの人のお蔭で給料を頂けることを学んだり、大根の上に15キログラムの金型を落とし、粉々になった姿を見ることで作業の危険性を実感したりします。

さまざま企業の社長から仕事について教えてもらうことで、自社への理解も深まります。また、つらいことがあっても、自社だけでなく他社の仲間や年齢の近い先輩とも励ましあえるので、新入社員の定着にもつながります。

――目指す「ものづくり」は。

和泉

:ものづくりに携わる人は実際に『モノ』を作っているのに、クリエイティブとは言われないことに以前から疑問を持っていたが、東日本大震災から1カ月後に被災地に行き、考え方が大きく変わりました。

津波で何もなくなった空間を目の当たりにし、建物の復旧はできるが、復興は多くの人の生活が成り立ってこそだと痛感しました。ものづくり関係者は、テクノロジーやプロダクション、エンジニアリングのみに埋没するのではなく、『一緒に仕事を作ってこそクリエイティブなものづくりなのだ』と。

被災した酒屋の試飲イベントを開いたり被災地の企業と一緒に展示会に出展したりと、受注や雇用を生みだすお手伝いをしています。また震災復興支援として、被災した子どもたちの未来を願い『ホワイト&イエローリボンバッジ』というピンバッジを作り、収益の一部を福島県で子どもたちが演劇を行う団体に寄付しています。土地の歴史や産業構造、今後の未来も見据えた『クリエイティブなものづくり』を目指したいです。

――今後の指針は。

和泉

:海外受注が増えることで国内の仕事は減少していきます。国内で仕事を奪い合うのではなく、お客様や他社の抱える問題を追究し、新たなニーズを発掘していく必要があります。決められた作業のみに没頭せず、他社から刺激を受け、お客様の生活が豊かになったり便利になったりする製品をつくりたいです。

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記者プロフィール

穴吹美緒

穴吹美緒

役職 : -
在学中 : 大阪大学文学部(3回生)
出身地 : -
誕生日 : 1992年10月14日
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